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山口博家(やまぐちひろいえ)さん:魚沼錦鯉 |
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紅白で日本のグランドチャンピオンを獲得した山口博家氏は優れた飼育技術を持つ一人。現在、特に昭和三色に注力している。池によって鯉の育ち具合を確認し、その鯉に最適な方法で、理想の鯉を目指す。
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現在、私はそれぞれ水質と土質の違う、7つの池を所有しています。一般的に、昭和三色を育てるには、砂地の方がよいとされていますが、私の場合、必ずしもそれが正しいとは思っていません。粘土質の池でも良い昭和三色ができますし、同じ雌から産まれた稚魚でも、育てる池の性質によってそれぞれの仕上がりが違ってきます。ですから私は、その鯉にとって一番よい環境を与えてやるために毎日試行錯誤しています。昭和三色は、他の鯉に比べ、環境によって成長が大きく左右される鯉です。私のいるこの魚沼地区は、昭和三色の飼育には適した地域ですが、それでも、さらに質の違った7種類の池をつくり、それぞれの鯉に一番よい環境で与えられるよう神経をつかっています。
掛け合わせにも細心の注意を払います。私は、良い錦鯉を作る一つの大きな指標が系統だと思いますので、親鯉への投資は惜しまず、選定にも力を入れます。それだけ努力を費やしても、生産というのは一筋縄ではいきません。鯉は劣性遺伝のため、たとえすばらしい模様や質を持った親鯉を掛け合わせても、その子供が必ず良い鯉になるとは限らないのです。また、鯉同士の相性も重要です。こればかりは、掛けてみないことにはわかりませんので事前に見極めることは容易ではありません。この他にも、良い鯉を一匹作り出すためには、たくさんの労力を必要とします。3歳や5歳の鯉を作ろうと思っても、当然、それだけの年月を必要としますから、簡単にできるものではありません。いろいろと考え、日々努力を積み重ねても、本当に良い鯉はわずか数匹しか残らないのです。とても厳しい世界ですが、逆に考えると、そこが錦鯉のおもしろさでもあり、希少価値や人気につながっているのではないでしょうか。
金魚や熱帯魚と違い、鯉は大きく育ちます。最初は小さかった鯉が、20cm、50cm、80cmと大きく成長していくにつれ、体の線もどんどん美しくなってゆきます。鯉は、成長する美しさを備えており、そこが最大の魅力だと私は思うのです。愛好家の方々も、自分の鯉が、より大きく、より美しく成長していけば、もっと鯉を楽しく感じるはずです。そうして楽しみながら、末永く大切に育てていただきたいので、私は質や柄よりも、骨格を重視して鯉を作っています。これからも、自分の理想とする鯉に近づける努力を惜しまず、愛好家の方々にも喜んでいただけるような鯉を作っていきたいと思います。
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