錦鯉の質は産卵で決まる〜5月下旬から6月下旬〜
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産卵は私たち生産者にとって1年の中で最も重要なイベントの一つで、僅かなミスも許されない繊細な作業です。良い質を持った鯉は良い質を持った親鯉から生まれるものなので、常に質の高い親鯉を探し、親鯉同士の組み合わせについて年中考えています。錦鯉の質を決定づける産卵は生産者にとってまさに腕の見せどころなのです。

産卵に必要な良い資質を備えた親鯉は、模様よりもむしろ質や体型で選びます。白地、墨、緋、体型全てを兼ね備えた良い親鯉を仕入れるためであれば、“どこどこに良い親鯉がいる”という情報を得たら、例えどんなに遠くても足を運びます。しかし幸いなことに、新潟県は錦鯉原産地のため、良い鯉をもった生産者がたくさんいることから、比較的良い親鯉を手に入れやすいのです。良い親鯉を手に入れられるから良い鯉を生産できる。この好循環が原産地新潟の強みであり、新潟産の鯉の品質が高い理由の1つだと思います。

しかし、一概に良い親鯉を手に入れれば良い鯉を生産できるとは言えません。親鯉の質だけでなく、系統や相性などに配慮した組み合わせを考慮しなくてはならないのです。親鯉同士の組み合わせ次第で、生まれてくる鯉のできが変わってくるので、どの親鯉を組み合わせて産卵させるかが大切になります。あの鯉に相性が良さそうなのはどの鯉か、ということを常に考えていて、品評会に行ったときも出品されている鯉1匹1匹を見定めながら組み合わせを思い描きます。欲しいと思う鯉を見つけたらその所有者、生産者にその鯉の系統を聞きます。近親過ぎると弱い鯉ができてしまうからです。生産者にとって親鯉選定と組み合わせは、それだけ深い配慮とノウハウが求められるのです。

産卵の時期は地域ごとの気候によりますが、新潟の場合、水温が20度前後になる5月下旬から6月下旬にかけて行われます。産卵方法は自然産卵と人工産卵があり、自然産卵はメス鯉1匹に対してオス鯉を2〜3匹同じ生簀に入れて、生簀内のキンラン(卵を付着させるための水草に模した合成繊維)にそのまま産卵させます。オスを数匹使うのは卵の受精率を上げるためですが、どのオスの精子がかかって受精したのかわからないのが難点です。オス1匹でも構いませんが、孵化率と手間の効率が悪くなってしまいます。その点人工産卵は、産気づいたメスとオスを麻酔で眠らせ、卵を取り出し、精子と混ぜ、生産者の手でキンランに付着させるため、卵と精子の組み合わせを自由に決められるので、どのオスとメスの組み合わせかはっきりするという利点があります。だから私は人工産卵を採用しています。ただし、少しでも手違いがあれば全ての卵と精子が使えなくなってしまうので、細心の注意が必要となります。

高い品質の鯉を生産するのは私たち生産者にとっても簡単なことではないので、愛好家のみなさんにとっては非常に難しいことだと思います。しかし、自分が飼育する鯉を掛け合わせて、卵からその子供を育てるというのは新たな楽しみの発見につながりますし、鯉についてより深い知識を得ることができるチャンスだと思いますから、人工産卵の手順を学び、機会があれば是非チャレンジしてみてください。
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