錦鯉愛好家にとって鯉の病気は大きな問題である。特に現在世界で猛威を奮っているKHVは、感染が広まりやすいことから、自分の鯉に被害が出るだけでなく、他人の鯉にまで影響を与える可能性も大きい。新潟県は、錦鯉発祥の地であり、世界最大の錦鯉生産地であるだけでなく、生産者の鯉からKHVもSVCも全く発生させていない唯一の県である。生産量や品質だけでなく、疾病対策でも世界トップレベルの新潟県で、生産者や行政はどのように病気に対して取り組んでいるのか新潟県内水面水産試験場にインタビューした。

Q: こちらの内水面試験場はどのような施設なのでしょうか?
A: 新潟県内水面水産試験場(以下、試験場)は新潟県庁農林水産部の研究機関の一つです。
試験場の組織は総務課、養殖課、資源課、病理環境課の4つに分かれており、(1)資源の培養と適正管理技術の確立、(2)バイオテクノロジーの活用、(3)魚病対策技術の確立、(4)増養殖技術の開発と効率化といった個々のテーマに取り組んでいます。新潟県は以前からKHVに対しては厳しく対応してきましたが、中越地震があったために生産者間で鯉の移動が起きてしまいました。震災の被害に加え、KHVにかかってしまっては大変だということで、行政から震災復興予算を得て希望者全員がKHVの検査を受けました。その後、輸出に関してのガイドラインが定められ、その中で原則として年2回、KHVとSVCの検査を求めていますので、新潟の生産者は毎年定期的に検査を受けているのです。1回の検査で十何万円という費用がかかってしまうのですが、現時点ではSVCの検査費用に限り県の助成金で賄われています。
Q: 新潟の生産者全員がKHVとSVCの検査を受けているのですか?
A: 検査自体に法的な強制力はありませんので、全員とは言い切れません。
ただ、実際に県内でKHVやSVC発症率がゼロ%という結果は、その検査が愛好家のためでもあり、生産者自身のためでもあるということが広く浸透していることの証明だと思います。新潟県にいる錦鯉生産者の大部分が加盟している社団法人新潟錦鯉協議会では、鯉を国内にある他の養鯉場に移すときは、試験場から提供された無病鯉と合わせて水温18度〜23度で3週間飼育し、その無病鯉が正常であれば出荷してもよいという規定を定めています。
Q: ガイドラインと協議会の規定は違うのですか?
A: はい、違います。
ガイドラインとは試験場と生産者が中心となって決めた県独自のもので、主に輸出向けに定められています。年に2回KHVとSVCの検査を受けた生産者は農林水産省の魚類安全局のリストに登録され、そのリストに登録された業者が輸出する場合は、臨床的な確認に合格した後、試験場から無病証明を発行されるシステムになっています。それに比べ、協議会の規定は国内の鯉の移動に関するものです。現在、県独自のガイドラインが敷かれているのは、全国でもおそらく新潟だけではないでしょうか。
Q: KHVを防ぐためにはどうしたらいいですか?
A: 池の水源を確かめることと、鯉の移動を避けることがとても重要です。
KHVはとても強力なウィルスで、生物の細胞から離れた後、水の中で約1ヶ月ほど生き続けることができるため、水を媒体に感染する可能性もあります。農業祭では、生産者の鯉の水が他の水槽に一滴でも混じらないように細心の注意が払われているほどです。地面に染み込んで集まった井戸水や湧き水であれば安心して使っていただけるのですが、川から池に水を引いた場合は川上でKHVが発生していれば感染する可能性が考えられるので、それは避けてください。一番注意しなくてはならないのが、鯉の移動です。KHVは、水温20〜25度で必ず発病しますが、水温30度の環境に置くと体内の菌が死滅し、その鯉には免疫がつきます。ただし、その時点でキャリアになってしまっているので、他の健康な鯉と同じ池や水で飼育するとKHVの感染が広がってしまいます。ですから、一見何の変哲もない健康そうに見える鯉でも、キャリアである可能性があるため、出所が不明な鯉は池にいれてはいけません。愛好家の間で鯉を預かったり、譲渡することは往々にしてあるかもしれませんが、KHVをこれ以上広げないためにはそういった鯉の移動も避けるべきだと思います。先ほども言いましたが、新潟の生産者の池から出る鯉は安全です。しかし、愛好家のみなさんの手に届くまでの過程でKHVに感染している可能性は、残念ながら否定できません。購入先のディーラーが鯉の病気に対してどのような対策や検査を施しているのか、確認してみたら良いと思います。

新潟県は原産地としてのプライドをかけ、魚病対策に万全の策で挑んでいます。KHVが発生したとか、震災以来鯉が死滅したなどさまざまな噂が飛び交っているようですが、どれも全く事実無根の間違った情報です。私たちはこれからも、新潟県内でのKHVやSVC発症率ゼロ%を守り続け、より安全な鯉を愛好家の方々へお届けできるよう努力してまいりますので、よろしくお願い致します


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